第3章 ❤︎ 結婚記念日 赤葦京治
「ごめん。俺のせいで泣き顔になったな。これから出かけようと思ったのに」
「今から?」
「久々のデート?どう?」
「うん、行きたい…っ」
「じゃ車そこに停めてるし今から行こう」
「でも、ちゃんと着替えてない」
「そのままでいいよ。普段着も可愛い」
“可愛い”なんていつぶりかの言葉に思わず赤面してしまった。だって一応スカート履いてるけど、いかにもこれから近所へ買い物に行きますって感じのスタイルだし化粧だって適当…。
「可愛くなんてないよ」
「いつも思ってる。なかなか言えないだけで」
「ほんとにこの格好で大丈夫?」
「大丈夫。買い物でもして気に入った服があればそこで買えばいいよ」
「そんな…」
「たまには俺にも奥さん孝行させて」
付き合い初めのような甘酸っぱい感覚に嬉しいのと恥ずかしいのとでなんて答えたらいいのか分からない。気を抜けばはにかんでしまう。
「顔あげて?」
反射的に僅かに顔を上げると誘うような口付けが待っていた。ちゅっと響く甘いリップ音。
「……行こう?」
「……うん。じゃお財布、取ってくるね」
「待ってる」
慌ただしく鞄に必要なものだけを詰めて支度をする。せめて口紅だけでもとキスの余韻が残る唇に紅を引く。ふと見た鏡に映る自分は昨日までとは違って幸せそうに見えた。
玄関で待つ京治は手を差し出してくれて、隠しきれない嬉しさに顔を綻ばせながら手を取った。久しぶりのデート。子どものようにはしゃいでしまいそうなくらいに気持ちは高鳴っていた。
「今からどこに行くの?」
「どこでもいいけど買い物でも行く?」
「あ、じゃあ私新しい食器とか雑貨みたいんだ。だからショッピングモールに行きたいな」
「了解」
明るい日差しに目を細めながら京治の車に乗り込む。助手席のドリンクホルダーには私の好きなメーカーのカフェラテ。こういうところさすがだな…って思いながら低音のエンジン音が鳴り響き、車がゆっくり前に走り出す。窓を開ければどこからかスイセンの香り。春の風を感じて青く澄み切った空がとても綺麗だった。