第13章 ❤︎ 岩泉先生の彼女と及川先生
まだ眠い目をこすりながら先生のパーカーを羽織る。化粧道具だって持ってなかったし鏡の前の私は酷い顔で、眉毛は半分だしなんといっても全体的に顔が薄い。よくこんな顔を先生の前に晒せたなって今更になて恥ずかしくなる。
明るくなってきた空は容赦なく顔を照らし始めて、こんなんなら昨日コンビニで眉ペンの一つでも買っておくんだった。
「そろそろ出んぞ」
「ねぇ先生。私の顔あんま見ないでね、すっぴんだから」
「ああ?」
そう言うと面白がってわざと顔を覗き込むような仕草をする先生。
「だから見ないでって」
「なんだよ、昨日からずっとその顔だっただろ?」
「やだ、無理」
「別にいいじゃねぇか、すっぴんでもそんな変わんねぇんだから」
「それはそれで困る」
「ばーか、そういう意味じゃねぇから」
片手でふわっと抱き寄せて“可愛いんだって…”と確かにそう聞こえた。驚いて顔をあげるとゆっくりと唇が重なって、私も目を閉じる。あまりにも自然なキスにもうすっぴんなんてどうでもいいやって私の単純な思考によってさっさと解決されてしまった。
これでめでたしめでたしなら幸せなままで終われたのにね。
「あの…。もしかして、#NAME2#さんと岩ちゃん……?」
もしこれが夢ならこの瞬間に眼が覚めるはずだった。でもこれは紛れもない現実で、その声は幸せな夢から現実へと突き落とされた。
「あー…、最悪だな」
「え、なん…で」
目の前に立っている人を目の当たりにして私も言葉を失った。
「ごめん、今の見ちゃったんだけど。……何、してんの?」
私も先生も何も返せないまま、しばらくの沈黙の三人を包み、先生が諦めたようにひとつため息をついた後、口を開く。
「悪い。…今、お前が思ってる通りだ」
「………そ、っか」
「………ああ」