第12章 ❤︎ 家まで待てない 北信介
≫信介side
いつもの道から外れた川沿いには空室の青ランプが誘うにようにホテルが数軒並んでいる。適当に入って無人のフロントを抜けると必要最低限の家具が揃っている一室へ。都会にあるのとは違って決して綺麗なところではない。特有の埃っぽさとタバコの匂いが残っていてそのチープさが欲を掻き立てる。
ベッドに腰掛ける前に押し倒して二人で冷たくひんやりとしたシーツの中へとなだれ込む。
「待って信介…。お風呂」
「それも今待てんって言ったら?」
「じゃあ、一緒に入ろうよ。私もしたいけどまだ今日お風呂入ってないから綺麗にしたい」
俺を見つめる戸惑った表情にハッとする。
「ごめん、さすがに俺の我儘やな。ほな一緒に入ろか?」
「うん。多少休憩時間過ぎちゃっても大丈夫でしょ?」
「それは全然かまへんで」
「でも信介がこんなにがっつくなんて珍しいね…。可愛い」
そう言って俺を抱き締めると変わらない香水の香りがした。男だから下心ももちろんあった。だけど会えなかった半年間でまた綺麗になった彼女にほんの少しの嫉妬心から。俺の手の届かないところで他の誰かに想われたり触れられたりしていたらって考えるだけで焦りにも似た感情が湧き上がる。
「信介が心配するようなことは何もないからね。仕事と家の往復な毎日だもん。信介のこと考えてるだけで精一杯なんだよ?」
そう言ってさらにぎゅっと抱きしめてくれた小さな腕に俺は胸が苦しかった。