第12章 ❤︎ 家まで待てない 北信介
「道も空いてるね」
「そらもう夜中やしこの辺は家も少ないから」
「みんな寝ちゃってるね」
「農家は朝が早いからな。けど俺も明日は半日休みみたいなもん」
「そうなの?」
「言うても農機具の手入れもしとかないかんしホームセンターも行かないかんけど。一緒に来るやろ?」
「行く。信介がいるならどこにでも行く」
「合間でなんか美味いもんでも食いに行こうな」
「うん」
「手、繋ぐか?」
「いいの?」
「車も少ないし運転には支障ないから」
信介の左手と私の右手はしっかりと繋がれて、スピードを少し緩めた田舎へ続く道のりはもう立派なデート。だから道路の工事に捕まったってなんとも思わない。
「こんな遅くまで工事してんだね」
「せやなぁ。梅雨前に舗装せないかんのやろな」
こんな夜中なのにも関わらず工事現場前の電光掲示板には“残り180秒”と表示されてる。奥の方でチカチカとライトの点滅が見える。
「後ろも誰もおらんな」
後方を確認した後、なんとなくそんな雰囲気になってどちらからともなく唇を重ねる。半年ぶりのキスは互いに足りないかったもの埋めるように深く混ざり合う。それは体が勘違いしちゃそうなくらいの濃厚なもの。
「なぁ…、ちょっと寄り道してもええ?」
「どこに?」
「こんな途中でキスなんかしたら、家まで待てんわ」
「え?」
「お前が嫌やなかったら、この辺のホテル、寄ってかん?」
まだ汗ばむ季節じゃないのに体は熱り始めている。私を見つめる信介の表情には余裕がないように見えた。