第12章 ❤︎ 家まで待てない 北信介
≫夢主side
最寄りの駅に着いた時にはもう終電間近で平日ということもあってか閑散としていた。疲れ気味の駅員さんにも心の中で“お疲れ様です”なんて告げて改札を早足で抜けると大好きな恋人の姿が見える。
「信介!」
こうやって名前を呼ぶだけで嬉ししくて仕方ない。私の姿を見つけるとTシャツに短パンなラフな姿の信介も右手を挙げて応える。遠距離恋愛故、こうやって会える瞬間はいつだって特別。
「またぎょうさん荷物持って」
「みんなにお土産も渡したくてそれで東京駅で沢山買っちゃった」
「気にせんでええのに」
「だって半年ぶりだから嬉しくて。みんな変わらず元気?」
「元気すぎるくらいやで。これから田植え控えてるから体壊された俺も困る。…ほら、荷物?」
「ありがと」
両手でやっと持てたぎっしりと詰められた紙袋も軽々と持ち上げたその腕はこんがりと日焼けしている。片方の手は私の手を握ってこうやって肩を並べて歩けることにまた口元が緩む。駐車場に停められた見慣れた軽トラックも駅前の光景も私を安心させて、シトラスの爽やかな香りの車内はいつもよりずっと甘く感じる。
「ごめんね。ギリギリまで仕事してたからこんな遅くなって」
「よう休み取れたな」
「頑張ったの。田植え始まるまでにどうしても会いたくて」
「俺がなかなかそっちには行けんからな」
「いいの。それも全部分かってるから」
会えない寂しさは会えた時の嬉しさで全部チャラになる。会えなくても信介からの愛情と優しさでなんとかやってこれた日々に背中を押してもらっている毎日だ。
10分も走れば都会の明かりが減っていき窓を開けると虫の声が聞こえ始める。梅雨入り前の涼しい風は都会では感じられない程に澄んでいる。