第11章 ❤︎ 年下男子の好機 佐久早聖臣
聖臣は眉間に皺を寄せてしばらく何か考え込んだように静かになる。ザザーッという波の音だけがその場を包む。
「なら今は俺にとっては…チャンス……」
「…何?」
「例えば4年前のいちかは、俺のことなんて眼中になかっただろ?」
「4年前って聖臣はまだ高校生だったでしょ?」
「そう。だから今、やっといちかに追いつける」
「ちょっと待って、どういうこと?」
真っ直ぐ前を見つめる聖臣の横顔は真剣で視線を外すこともできない。
「今を無駄にできない」
聖臣の唇が短く言葉を紡ぐ。
「ずっといちかが好きだった」
真っ直ぐに見つめる視線と唐突な告白に私は戸惑いを隠せない。
「え…、だって、聖臣は」
「俺はいちかをずっと異性として見てたし離れてる間もいちかのことだけ考えてた。いちかの顔見て何かあったってすぐ気付いたから辛い思いをしてる時くらい一緒にいたい」
返事をする前に大きな体が包んで、切なく吐く言葉に合わせるように抱き締めた腕に力を込められる。抱かれるぬくもりに別れた彼の記憶が呼び覚まされていく。
あれから私の何がいけなかったんだろうって自分を何度も責めた。
もう戻れない日々に哀しさも悔しさも全部胸に仕舞い込んで何事もなかったように毎日を過ごして、でも本当はこうやって思い切り誰かに甘えて泣きたかったのかもしれない。溢れる涙がその答えだ。
「ごめん、聖臣。少し泣かせて」
弱さを見せるのが嫌でずっと我慢してた。でもやっと言葉にできたから体の力が抜けていく。強がることも忘れて泣きじゃくる私を聖臣はただ優しく抱きしめて受け止めてくれた。