第11章 ❤︎ 年下男子の好機 佐久早聖臣
とはいえ実家に帰ってきても特別な事があるわけでもなく無駄に過ごすだけで、相変わらず別れた彼を思うと胸は苦しくなるばかりだった。
有休もあと三日となったある夕暮れ時、庭の花に水をあげながら夕焼けに染まる空を眺めていると誰かが近付いてくるのに気付いた。
「久しぶり」
そう声を掛けられ、視線を移すと5歳年下の幼馴染。幼馴染というよりは弟みたいな感覚だけど数年ぶりに見たその姿はすっかりと大人へと変貌を遂げていた。
「え、聖臣…?」
以前会った時は好きなバレーに打ち込んで青春真っ盛りな高校生だったのにに“いちかさん”なんて真っ直ぐに見つめる表情はあの頃より少し大人びていて、思わず見惚れてしまう程。
「聖臣にさん付けで呼ばれるのなんか照れるからやめてよ。今までみたいに普通にいちかでいいから」
「じゃあ、いちか。……おかえり」
「ただいま、聖臣」
表情は変えなくても優しい声色になるのは相変わらず。小さい頃から私にだけは懐いてくれてたから。久しぶりに聖臣に会えただけでも帰ってきてよかった。
「こんな時期に帰ってくるなんて思わなかった…。会社は休み?」
「ううん、思い切って有休とっちゃった。たまにはいいかなって」
「正月にも帰ってなかっただろ?」
「…うん、私も帰りたかったんだけどね。なかなか忙しくて」
だって去年のお正月は彼と一緒だったから。彼の実家に遊びにいって過ごしていたなんて今となっては夢みたい話だ。
「突然帰ってくるとか、何かあった?」
「…なんで?」
「なんとなく」
「そりゃあね、大人になったら色々あるよー」
家族も“何かあった?”そう言って気遣ってくれた。でも彼氏に振られて帰ってきましたなんて言えなくて残るモヤモヤはまだ心の中心で重くのしかかかっている。
「いいことも嫌なこともあるけど、努力が実らないこともあるんだなぁって実感中」
「……うん」
「私ってほら童顔でしょ?だからそうは見えないかもしれないけど、今は仕事でも重要な仕事任せてもらってるし髪だって伸ばして少しでも年相応に見えるように努力してるのに」
「いちかが努力家なのは知ってる」
「ありがとう。でも努力だけじゃうまくいかなくて…。少し落ち込んじゃってたから気分転換も兼ねて帰ってきたんだ。なんて言うと自分が弱くなっちゃったみたいで格好悪いよね」
