第10章 及川の彼女 岩泉一
「なぁ…」
「うん?」
「もういいんじゃねぇの?」
「何が…?」
「彼氏くらいつくれ」
いきなりストレートにいっちまった…って自分でもそう思ったけどもう遅い。いちかは苦笑しながら少し間をおいて話し始める。
「今は…、まだいいかな」
「大学生活楽しくねぇだろ?」
「そうでもないよ?授業と家庭教師のバイトで毎日忙しいくらい」
「お前の無理してる顔なんて見飽きたわ」
「もうしてない」
「してんのバレバレなんだよ」
「ほんとに無理なんてしてない。一君の事も徹君の事ももう過去の事だから」
「じゃあなんでずっと避けてたんだ?」
「それは……、ごめんなさい。失礼な事してたよね」
「失礼とかそんなのはいいから…。………なぁ、もういい加減忘れろよ」
「今更今までのことをなかったことになんて出来ない」
「だったら無理にでもなかったことにしろ。全部忘れろ」
「そんなの…」
「俺だってずっと待ってたんだよ。お前にだって時間が必要なのも分かってたからそっとしてたんだ…、けどいい加減動かねぇと後で後悔するぞ?」
「いいよ、今は特に彼氏も欲しくないし」
「いつまでもそんなんだったら彼氏どころか嫁にも行けねぇぞ」
「まだまだ先のことだからいい」
「よくねぇんだよ、俺が」
平行線のままの会話につい熱くなってしまう。彼氏だの嫁だのおかしなこと言ってのも分かってるけど、抑えていた気持ちは止まらない。