第10章 及川の彼女 岩泉一
あれから半年…、いちかは及川と同じ大学に進む事はなく、俺の進学先と同じ第二希望だった大学へと進学した。
会うことも話もせずどこの大学を選んだのかは知らなかったから、入学式で再会した時には驚いた。
俺はそれなりに大学生活を楽しみながらいつもいちかの事が気になっていた。講義室の隅に座って友達とも話している姿もあまり見たことがなく、講義が終わればそのまま帰って行く姿ばかりを追っていた。
俺を避けるような態度は変わることはなく、気になっても話しかけることはできないままだった。
その日は予定していた講義が急遽休講となった。連れたちは今からカラオケやファミレスに直行するらしかったけど、俺は気が乗らないまま隣接した図書館へと向かっていた。
人の少ないテラス席にいちかの姿を見つけて、一瞬心臓が跳ねた。
このまま通り過ぎる事も出来るし別の館から出れば会わずに済む。でもこのままでいい筈もない。そのままいちかのいる場所へと足を進めた。
「よう…」
「……あ、岩泉君」
「久しぶりだな」
俺に驚いたような顔を見せて、噛みを耳にかけながら俯きがちに“…久しぶり”と小さく呟く。
「お前は嫌かもしれないけど、ちょっと話さねぇか?」
「え?」
「嫌だったら構わねぇけど」
「………少しだけなら」
「サンキュ…」
そうは言いながらいちかと話をするのは半年以上も前になる。会ったら話したい事が沢山あった筈なのにこんな時に限って言葉が出ない。