第10章 及川の彼女 岩泉一
家に着いても二人の会話が頭から離れなかった。後で及川に会った時にそれとなく聞くとこの後は彼女に会うとだけ言ってた。
辻褄が合わない事実。及川に突き詰める事も出来たけど、真実を知ったところで俺が無力なのは変わりない事だった。
「アイツ、嘘までついて何やってんだよ」
及川に対しての一方的な苛立ちが募る。ふと向かいの家の及川の部屋を見ればカーテンは閉まったまま、まだ帰った様子もなく真っ暗だった。
「…いちか?」
玄関先で及川の部屋を見つめる人影に気付く。暗くてはじめは誰か分からなかったけど、確かにそれはいちかの姿だった。
時計を見ればもう21時を回ったところ。いちかが待っていても及川は帰ってこない。さすがにこんな時間に一人外で待たせるなんてできるかっての。