第10章 及川の彼女 岩泉一
部活も終わり体育館の鍵を返しに校舎に向かう途中、及川といちかの姿を見つけた。けどここで鉢合わせになると気まずいに決まっている。二人の話を盗み聞きするつもりはなかったけど聞こえてきた会話に足は止まる。
「徹君、今日の夜って空いてる…?」
「あー…ごめん。今日岩ちゃん家行くんだ」
「…あの、少しだけでも時間ないかな?」
「ごめん!この間の練習試合の録画、見る予定なんだ。それで明日からの練習メニュー打ち合わせするんだ」
「ああ、そっか…。また再来週練習試合があるって言ってたもんね」
「そう、…だからほんとごめん。今度ちゃんと埋め合わせするから」
「うん、分かった。じゃあまた連絡して?」
「OK。…あ、でも岩ちゃん家で居る間は返信できないからそれが終わってからね」
「連絡、待ってる」
「ほんとごめんね。今度ゆっくり会う時間作るから」
いや待て。そもそも及川とんな約束なんてしてねぇんだけど…。アイツ、何平気な顔して嘘ついてんだよ。二人の会話にモヤモヤした思いが募っていく。
及川も及川で他の女の遊んでるかもしれないって事も否定はできない。
だからってもう俺たちはとっくに別れてんだよ。今更、どうしてやることももうできねぇんだよ。