第10章 及川の彼女 岩泉一
一体、アイツの何がモテるのかどこがいいのか…俺には全く分かんねぇ。彼女に対しては優しくしてるだろうけど、この二人がうまくいってるようには見えねぇ。
「けどアイツだって一応人間なんだから話せば分かるんじゃねぇの?」
「人間って…、でもそうだよね。最近お互い忙しくて会う時間もなくて…、今度ちゃんと話してみる」
「そうしろそうしろ。ダメなときは俺に……」
「え?」
「いや、何でもない」
俺に言ったところで何が出来るんだよ…。こんなの、及川にとっても迷惑なだけだ。
「岩泉君?」
「悪い。なんでもねぇ」
「岩泉君も練習あるんだよね?ごめんね、引き留めちゃって」
「いや?俺も久しぶりに話せてよかった。別れてからもお前の事はなんとなく気掛かりだったし」
「…ごめんね?相変わらず心配かけて」
「そんなんじゃねぇけどよ…。まぁ次からも普通に話くらいはしようぜ」
「そうだね。…なんか、そんな風に言ってくれて嬉しい。優しかったもんね、岩泉君って…」
そう言いながら見せた笑顔はあの頃と変わらない笑顔。いちかの記憶の中の俺は優しいままでいるのか…。
別れてから何度も後悔した。やり直せるならってどれほど思った事か…。
「……だからそんなじゃねぇって。俺ももう部活行くから…」
現に今だっていちかに対する思いは付き合ってた頃と変わってなんかいない。それを今痛いくらいに痛感してる。
「引き留めちゃってごめんね。ありがとう」
「おう。じゃまたな」
「うん、また…」
だけどいちかが好きなのは及川だ。俺たちが別れを選んだのは俺の所為でもある。今更になってこんなに悔しいなら、どうしてあの時もっといちかを大切に出来なかったんだろう。