第9章 ❤︎ 真夜中のプロポーズ 澤村大地
≫≫四年後……
真夜中のラーメン屋さんの店内は私と大地、そしてサラリーマン風のおじさんが数名。深夜のバラエティ番組の乾いた笑い声が響いてラーメン屋さん特有の油っこい感じとカウンター越しに湯気が立ち昇る。付き合いも長いしスウェット姿の私たちにはこんなラーメン屋さんがとてもよく合っている。
「珍しいな。いちかがこんな夜中にラーメンが食いたいなんて」
「うん。なんか急にしょっぱいものが食べたくなって…。しかもなぜか醤油ラーメンなんだよね…」
「醤油って言えばここの店が一番うまいんだよ」
「そうなんだ。…あ、きたよ」
運ばれてきたラーメンから醤油香ばしい香りに食欲がそそる。スープを一口飲むと、求めていたしょっぱくって優しい味が口に広がって思わず笑みが零れる。私の反応に“美味いだろ?”と隣で満足そうな大地君。
「今日はチャーハンじゃなくていいのか?」
「うん。…だけど、……ほんとに味覚が変わるんだね」
ズズズッと麺を啜った大地君が“……ん?”と横目で見る。私は一旦お箸を止めて一度大きく深呼吸をした。
「それでね、話なんだけど」
「ん、何?」
「今さ、二か月なんだって」
「…なにが?」
「赤ちゃん」
「誰の?」
「私の…」
「なに?」
「大地君と私の…」
「は……、へ……?」
想像通り、私の言葉に大地君は口をぽかんと開けて表情は固まり、箸でつまんだナルトははらりと落ちる。
「え、っちょ、…え?」
「ほらこの前の夜?飲み会の後、大地君迎えに行ったじゃん。多分、その時の…」
「いやそこじゃないって。え、…え、………ほんと?」
「ここ一週間くらい調子悪くてなんとなく気持ち悪かったの。気持ち悪いくせに急にラーメンとか食べたくなるし思えば生理も遅れてるし…。ああこれが悪阻なんだなって思って」
「ちょ、ちょっと待て…。整理するから」
「整理もなにもちゃんと病院行って確認してきたよ…。ほら、これ……」
手帳のポケットに忍ばせていた一枚の白黒の写真を渡し、一緒に覗き込む。
「ほんとに…?」
「ほらここ。真ん中のこの豆粒みたいなのが赤ちゃんなんだって…」
「これが……、俺といちかの?」
「そうだよ」