第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
最初は一人ずつのソロ撮影、そしていちかを交えてのツーショット撮影。衣装に合わせてセットも代わり、目まぐるしく目の前が切り替わっていく。ノリノリな及川とは正反対に、撮影ってものに不慣れな俺はカメラマンの指示に応えるのも精一杯だった。
花「次はいちかちゃん、及川との撮影だって」
岩「みたいだな」
花「めちゃくちゃ嬉しそうだな、及川」
松「まぁ一番こういうの似合うしな」
花「悔しいけど絵になるもんな」
岩「俺は疲れた…。いつまでこの格好しとかなきゃいけねぇんだよ」
花「あと少し。及川の撮影の後は岩といちかちゃんだろ?」
岩「ああ」
花「いちかちゃん楽しみにしてるだろうね」
岩「どんな顔してりゃいいんだよ。俺は及川みたいにできねぇぞ」
松「及川は特別。いちかちゃんのこと好きだし今だって及川一人幸せそうな表情してる。本気で好きなんだろうな」
岩「くだらねぇ」
目の間には二人が手を繋ぎ寄り添っていた。及川とのツーショット撮影はそれなりに覚悟していたとは言え、いい気はしない。
花「岩、どこいくの?」
岩「便所」
花「全部見てかないの」
岩「いいわ。及川のドヤ顔とか見ても得しねぇからな」
及川のドヤ顔は昔からうざいくらいに見てきてこれ以上見たくもねぇし俺だって次に撮影控えてるし自然現象だし…。誰に聞かせるわけでもないそんな言い訳じみた言葉が次から次へと溢れてくる。
いちかの花嫁姿を見てからずっと心がかき乱されたまま落ち着かない。