第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
北「俺は男やからええけどお前は女やろ?俺以外誰が守ってくれんねん」
「それは…、将来の旦那様になる人」
治「そんなんでほんまに大丈夫なんですか?」
「何が?」
治「別にいちかさんの好きな奴を否定するわけやないですけど、もしあかんかったらって…」
「まぁ、こっち来た当初は一人で気張ってたってのは正直あんねん。向こうでいた時は毎日騒がしすぎるくらいに楽しかったけど、いきなり一人になって寂しかったし不安やってんけど、でもそれ以上に好きって気持ちの方が強かってん」
治「けど俺は北さんみたいな人の方が絶対ええと思いますけど」
「そんなん言うたって仕方ないやん」
治「なんでですか?」
「運命感じてしもたんやもん」
治「へ?」
「一目見た時にああこの人が好きって思ってん。憧れやなく好きってはっきり感じたんやもん」
北「……いちからしいわ」
「好きなもんは好き。それ以外にない。私に説教垂れるばっかで食べへんのやったらそっちのも頂戴」
治「え?…ちょ、俺の牛タンステーキ!」
治の皿からの最後の一切れを奪いひょいと口へ放り込む。表情を綻ばせながら味わい、隣で恨めしそうに見つめる治をよそに満足気に笑った。
「……んー、おいし」
治「最後にデカイの残してたのに…」
北「ま、それだけいちかの意思は固いっちゅうこっちゃ。お前らも応援したり?」
「……そういうこと。でも、今日みんなこっちに来てくれてほんまはめちゃめちゃ嬉しかってん。心配してくれてるのもちゃんと分かってるよ?けどもうちょっと頑張りたいねん」
侑「ほな、絶対結果出してくださいよ?」
「そのつもり。諦めへん」
北「これで納得したか?…あと40分で新幹線の時間や。食うたら店出るで?」
治「え?もう?まだ16時過ぎですよ?」
侑「帰りの新幹線って早よないですか?最終でええんやないですか?」