第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
家に戻ってシャワーを済ませると俺は部屋のベッドに横たわった。星賀の件でどっと疲れた。
何にも考えたくねぇのに、こんな時に限ってあいつ今頃何してんだ…って柳瀬のことを考えてしまう。あいつの予想外な発言とか結構嫌いじゃねぇし今ここにあいつがいたらこの憂鬱な気持ちも吹っ飛ぶんじゃねぇかとか身勝手なことばっか考えてしまう。
「ああもう何なんだよ一体…っ」
イライラも頂点に達した俺は布団を頭まで被るとふて寝に徹した。
起きた時にはもう夕方過ぎだった。スマホを見ると母ちゃんからメールが入っていた。“今から急な女子会に行ってきます、晩御飯はありません。ハッピーバーズディ!”と書かれてる。
「マジかよ、信じらんねぇ」
別に特別何かして欲しいとかはねぇけど、一人息子の誕生日に女子会優先するか普通…。あれだけたらふく食ったラーメンもチャーハンももう消化したのか腹が減り始めている。
なんか作るのも面倒だしカップ麺っつったって昼もラーメンだったしな…。何でもいいから作ってから出かけてくれよ。
「冷蔵庫もなんもねぇし」
誕生日だからって期待してたわけじゃないけど星賀のこともあったしまた気が重くなった。こんな時に限ってインターフォンも鳴るしいっそ居留守使ってやろうかと思ったけど後で母ちゃんになんか言われても面倒だしと重い腰を上げた。
扉を開けると柳瀬が立っていた。土砂降りの中、急いでいたのか息を切らし雨で肩が濡れている。
「ごめんなさい、急に来ちゃって」
「どうしたんだよ、こんな雨の中」
「お母さんから連絡があって…。急なお通夜で一君の晩御飯用意できないから作ってくれないかって頼まれて」
「通夜?」
「はい。東京の知り合いの方で今夜は帰れないから」
「俺には女子会って言ってたぞ」
「え……」
「あんのババァ…、堂々と嘘つきやがって」
「嘘…?」
「どうせ二人きりにさせてやろうとかそんなとこだろうよ…」