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(R18) kiss hug ❤︎ HQ裏夢

第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一


「今日が一君の誕生日だから?」
「だろうな」

俺の言葉に柳瀬は気不味そうに目線を逸らす。申し訳なさそうに俺を見ると“ごめんなさい”と頭を下げた。

「何だよ」
「私、実はついさっき一君の誕生日だって知ったんです。聞けばよかったのに全然知らなくて…、本当にごめんなさい」
「んなこと別にいいよ。気にすんな。そもそも言ってなかったんだし」
「今日は突然だったからプレゼントとか準備できなかったんですけど、でもお母さんから揚げ出し豆腐作ってあげてって言われたのでその材料だけは買ってきました」
「え?お前、揚げ出し豆腐作れんの?」
「作ったことはないけどレシピを見ればいけると思います」
「マジ?…俺、腹減ってんだよ」
「じゃあお邪魔して作ってもいいですか?」
「何言ってんだよ。ほぼ毎日来てんのに今更だろ?」
「それもそうですね。なんか改まっちゃって」
「悪かったな。急に…」
「いえ、でも別にすることもなかったですし、こうやって一君にも会えたし」

嬉しそうにはにかんだ。見たこともなかった俺のことを好きだっていうこいつの気持ちなんて初めは理解できなかったのに、毎日を一緒に過ごすうちに揺るがない気持ちの強さを知ってしまった。断ち切れなかった星賀への想いを吹っ切れたのはそのおかげなのかもしれない。

「じゃあ、さっそく始めますね。もう少し待っててください」

テーブルに買い物袋を置くと鞄からはエプロンを取り出して肩まで伸びた髪を一つにまとめた。何気ない動作でも印象が変わる瞬間をつい見つめてしまっていた。

「一君…?」
「あ、悪い。何?」
「キッチンって、勝手に使っていいのかな…。私、洗い物くらいしか手伝ったことなくて」
「母ちゃんがお前にわざわざ頼んだんだし好きに使えよ」
「じゃあお言葉に甘えて…。えーっと…、まずは何からしようかな…」

真剣な表情に邪魔にならないようにとリビングのソファーに移動する。もう前みたいに一人部屋に戻るって選択肢はなくて柳瀬と存在を感じながら時々聞こえてくる独り言、調理の音を聞いているのも悪くなかった。
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