第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

「ここまでくりゃ及川も追いつけねぇだろ」
「ですね。……でも、悪いことしちゃったな」
「自業自得だろ？」
「そうですけど。ああでもだめだ…。走ったらまたお腹減った」
「どんだけ腹減ってたんだよ」
「すっごく…、行儀悪いんですけど、メロンパン、続き食べていいですか？」
「俺が気にすると思うか？」
「いえ…」
「好きなだけ食え。でもお前、うちでそんな食ってたっけ？」
「甘いものは別腹なんですよね。頑張ったご褒美だし及川君が買ってくれたメロンパンが美味しくて…。よかったら一口食べます？」
「いや、いらね…」

つっても俺、打ち上げの途中で抜けてきたんだった。焼肉だって食いかけだったし腹は……めちゃくちゃ減ってる。確かに及川の買ったメロンパンは美味そうだ。気づけば手に持ったままの食いかけのメロンパンにぱくついた。

「……あっ」
「…ん？」
「今いらないって…」
「最後まで言ってねぇだろ？」
「でも…、食べかけ」
「お前が美味そうに食ってたからな」
「……間接キス、ですよ？」
「はぁ？」
「いいんですか？」
「いいも悪いもんなもんいちいち気にしねぇよ」
「私が気にします。例え間接であってもキスはキスです。この前の熱中症で倒れちゃった時はラッキーパプニングだったけど今回は間接キス確定ですよね？」
「なんだよ、確定って。お前は大袈裟なんだよ」
「キスです！それも一君の方から！今のはもう完璧なキスです」
「違うから…。こんなことくらいでなんでそんな嬉しそうなんだよ」
「嬉しいに決まってるじゃないですか。片想いの相手と間接キスなんて成就フラグ立ったみたいなものだし」
「意味分かんねぇ」
「だって嫌われてたら体育館まで迎えに来てくれへんし、こんな友達以上なことせぇへんもん」
「メロンパン食ったくらいで大袈裟なんだよ」
「ずっと心の中で嫌われたらどないしよって合宿中やって思ってたし、先輩たちと言い合ってる時の私、可愛くなかったし、一君にもそう思われてたり引かれたら嫌やなって、一人残された体育館でほんまはちょっとだけ泣いてて」