第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
「俺一人で?」
「当たり前だろ?」
「ええー、付き合ってよ」
「はぁ?なんでだよ」
「だって折角三人で仲良く帰ってたのにさぁ」
「知らねぇよ、お前が忘れたんだろうが。一人で取りに行け」
「いちかちゃん、ちょっと散歩がてら……無理だよね」
「情けねぇ奴だな、お前は」
「わかったよ、一人で取ってくるよ!!じゃあさ二人ともゆーっくり帰っててよね。後で追いつくからさ」
「わーったよ」
「絶対だよ?」
「いいから、はよ取ってこい」
「約束したからね!絶対だからね!」
一度背を向けるもののまた振り返り念を押す。“待っててね”と叫んだ後、ショルダーバックを揺らしながら元来た道を駆け戻った。
「ったく騒がしい奴だな…」
「ねぇ、一君…」
「ん?」
「一つ提案があるんですけど」
「なんだよ」
「ダッシュしちゃいます?」
悪戯っ子のようににっと笑って誘う。柳瀬がこんな風に楽しそうに煽ってくるのはあまり見たことがなかった。
「奇遇だな。俺も同じこと考えてたわ。けどお前大丈夫なのか?」
「はい。及川君のおかげで血糖値も上がって元気になってきました。全然走れます」
「んじゃあ走るか?」
「はい…っ」
食べかけのメロンパンを鞄にしまって俺を真っ直ぐにみた。どうせ後で“なんで先に帰ったのさ!”なんてメッセージが入ってくるんだろけど今は悪ノリに乗っかってたかった。二人せーので走り出してもスピードは自然に柳瀬に合わせてふと見た横顔も楽しそうでお互い疲れ切ってんのになんか可笑しくて途中で吹き出して笑った。