第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

「はい」
「ねぇ、その好きな人ってどんな人なの？」
「容姿も性格もすごく男前な人です」
「他は？」
「口が悪くて素直じゃなくて、なのに時々すごく優しくて…。初めて見た時にこの人と私は結婚するんだなぁって直感で思いました」
「結婚…？そこまで考えてんの？」
「はい」
「そうなんだ…。じゃあこっちに来る前から好きだったとか？」
「そうです。物心ついた時から好きだったので」
「ああ。そういうの聞くとちょっと悔しいな。でも口が悪くて素直じゃないって岩ちゃんみたいな人だね。そんな人でいいの？」
「そんな人だからいいんです」

いやだってこいつの好きな相手、俺だしな…。悔しそうな顔した及川の面見れんのも悪くねぇよな。

「ねぇ岩ちゃん。さっきからずっと黙ってるけど」
「別に…。お前らの会話おもしれぇなぁと思って聞いてた」
「でも雰囲気とか岩泉君にも似てるかもしれないですね…。ぶっきらぼうなくせに優しいところなんかそっくりです」
「俺は優しくなんかねぇよ…」
「もー岩ちゃん、またそういう風に言って。いちかちゃんも気悪くなるでしょ？」
「全然そんなことないです」
「じゃあまた気が変わったら連絡先交換して？言っとくけど俺だってまだ諦めたわけじゃないから…」

こんだけ絶望的な状況なのに諦めないってワードが出てくんだから大したもんだわ。ま、俺だって及川の気持ちが全然理解できねぇわけじゃねぇけどな…。

「あ、ちょ、待って。俺、スマホ部室かも…」
「はぁ？」
「さっきマッキーが部室寄ったじゃん？そん時に俺ベンチに置いたような気がする…。ジャージのポケットに入ってないし」
「んじゃあ取ってくればいいだろ？鍵お前が持ってんだし」