第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
体育館を出た時には20時を過ぎていた。花巻と松川とは途中で別れて俺と及川と柳瀬の三人となった。柳瀬は及川にもらったメロンパンを頬張りながらご機嫌な様子だった(初対面のあの塩対応どこいったよ…)
「いちかちゃん、それそんなに美味しいの?」
「はい。おいひいです」
「ああ、ほんと可愛い…。全財産あのコンビニに注ぎ込んでよかった」
「でもすみません。食べ歩きとか行儀悪くて」
「ぶっ倒れるよりはいいよ」
「倒れても俺がちゃんと運んであげるから心配しなくていいからね。岩ちゃんよりも俺の方が女の子の扱いは上手いから」
「大丈夫です。倒れたりしませんから」
「よく言うわ」
「え?何?」
「なんでもねぇよ…」
この前、熱中症になった奴が何言ってんだか。無自覚で無理する奴ほどタチが悪い奴はいない。
「よかったらさ、連絡先交換しない?」
「いえ、しません」
「なんで!?お互い仲良くなってきたとこだしこの流れだったらさ、いいよ?って言っちゃわない?」
「いえ、言わないです」
「なんでさ!?拒否られたの俺初めてなんだけど…」
「よかったじゃねぇか。いい経験ができてよ」
「全然よくないから!なんでだめなの?親御さんが厳しいとか?」
「学校で会うのに連絡先を交換する必要ってありますか?」
「そうだけど休みの日とかさ…、連絡したいじゃん」
「私は好きな人以外とはしたくないです。というか休みの日もずっとその人のことを考えていたいので」
「そんなに好きなんだ」
「はい」
「俺が隙入るとこがないくらいに好き?」
「はい。おはようからおやすみまで。頭の先から爪先まで。なんなら骨の髄まで大好きです」
「怖ぇ…」
「逆にそこまで言い切れるなんてすごくない…?いちかちゃんって超ストイックなんだね」