第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

「それであの、ごめん、何かお詫びの印にと思って。何が好きなのか分からなくて。さっきコンビニで買ったんだけど好きなものがあったら受け取ってくれない？」

及川の手にはコンビニの大袋が二つ。中には女子受けしそうなお菓子や飲み物が詰め込まれている。

「え、これ、全部？」
「うん…。こんなんじゃ全然お詫びにもならないけどこれが今できる精一杯のことだから」
「嬉しい。お腹空いてたんだ…。実は寝転がってたのも実はお腹空きすぎてて動けなくて」
「おい、んなこと一言も言ってなかったじゃねぇかよ」
「さっきHPゼロって言いましたよ」
「そういう意味かよ！？」
「そんな動けないくらいお腹空いてるなら食べて食べて！好きなだけ全部！！」
「うん…、じゃあこのロールケーキ食べていいですか？」
「ちゃんと食わねぇとまた倒れんぞ？」
「え？何？倒れたの？いつ！？何で岩ちゃんがそんなこと知ってんの！？」
「あ？別に何でもいいだろ？お前には関係ねぇんだし」
「何でさ！？」
「まぁまぁ二人とも、今はゆっくり食べさせてあげなって」
「すみません、いただきます」

ロールケーキを小さな口で頬ばるいちかはほっとしたような表情に見せる。腹が減ってんならあんな回りくどい言い方しなくても一言“腹へった”って言わば俺がなんか買ってきてやったのに…。けど今回は及川にも責任があるから全財産叩いたって足りないくらいだ。

「ほんとにごめんね…？」
「もう気にしなくていいです。逆に気を遣わせてしまって。お菓子も沢山ありがとうございました」
「ごめんね、いちかちゃん………、大好き」
「あ？お前何言ってんだよ」
「だってさ、いちかちゃんすごくいい子じゃん。こんな俺でも許してくれるんだよ……。ねぇ本気で好きになってもいい？」
「それは及川君の勝手だけど私、好きな人いますよ？」
「いい。それでも全然いい。俺、絶対いちかちゃんのこと振り向かせるから」
「それは無理です」