第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
俺を見つめる柳瀬と視線が合った。その柔らかな表情と甘い言葉に不安定に揺れていた感情が然るべき場所にはまるように収まった気がした。
確実に俺の気持ちは柳瀬に向いている。
「あー!!こんなとこにいたー!!」
突然響き渡る声に反応して飛び起きると体育館の入り口には及川が俺たちを指差して喚いている
「何!?何なの!?こんなとこで寝っ転がって何してんのさ!?」
「お、青春してんじゃーん」
「なんか邪魔しちゃった?」
及川を筆頭に後から花巻と松川もついてくる。
「何だよ、お前らこそ打ち上げはどうしたんだよ!?」
「んー岩と一緒で俺たちも抜けてきちゃった」
「溝口君から聞いた。心配だから様子見てきますって言ったんだって?」
「悪いかよ…」
「いや、岩もいいとこあるなって思って。俺たちも抜け出したのはいいけどよく考えたらいちかちゃんの家知らないし、学校戻って先生にでも聞けば教えてくれるかなと思って。そしたら体育館電気ついてるんだもん、ここだなって直感で」
「わざわざごめんなさい。先輩達の手前もあるだろうに…」
「あんな先輩とは一緒にいたくないってのが本音だからね。俺はいちかちゃんと打ち上げしたかったし」
「俺もまっつんに同じ。だから来た」
「ありがとうございます。すごく嬉しい…」
「あの…、いちかちゃん。今回のこと、ほんとにごめん!!」
泣きそうな面を下げた及川はまた体育館に響き渡るくらいの声を響かせ頭を下げた。
「全部俺が悪かった。考えなしで自分勝手に行動して迷惑かけて本当にごめん!」
「そんな…っもう終わったことだしそんなに謝らないでいいです。私、気にしてないから」
「でも…」
「本当に大丈夫。私も自分が悪かったとは全然思ってないけど多分悪かったんだと思うし」
いや反省してるっぽいトーンで話してるくせに全然反省してねぇ。こういう時に意地でも折れねぇよな、こいつは…。