第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

「お前、さっきまでしんどそうにしてたのにすげぇ元気になってんじゃねぇかよ」
「だって一君と繋がれたから。それだけで嬉しくて」
「単純だな。お前はこのバレーボールがアイコンのでいいんだな？」
「はい、それです」
「なんでバレーボールなんだ？」
「ずっと好きだったんです。友達がしてたってのもあるんですけど、まさか一君もバレーしてたなんてなんか運命みたいで」
「お前もやってたのか？」
「いえ、経験は全く……。私は単に応援するのが好きだったので」
「んじゃルールくらいは知ってんだな。確か及川のこともセッター顔とか言ってたし」
「そうですね。ルールとポジションくらいは知ってます」
「お前ってつくづくよく分かんねぇな」
「じゃあ少しずつ知ってください」

言われなくてもこれから先もこっちで住むんなら嫌でも知っていくことになんだろうけど…。でもそれが嫌なわけでもないし今日みたいなことがあればまた放っておけなくて要らない世話やいて…ってなるんだろうな。それがなんで？って理由を聞かれても今はまだよく自分でも分からねぇんだよ。

「一君？」
「なんだよ」
「もう少しお喋りしてもいいですか？」
「無言よりはいいわ」
「よかった」
「んなこといちいち聞かなくていいから。話くらい好きにしろよ」
「はい。……あの、私ね、……本当はすごく怖かったんです」
「何が」
「初めて会った時は強がってたんですけど、一君にずっと嫌われたままだったらどうしようって」
「じゃあなんで帰らなかったんだよ。あん時ならまだ間に合ったんじゃねぇのか？」
「不安だったけど帰りたいとは思わなかった。やっぱり好きだから。どういう結果になっても後悔したくないなって、それだけです」
「俺には分からねぇわ。好きって理由だけで別の学校に転校して一人暮らしまでして…」
「好きって理由があれば十分じゃないですか。好きか嫌いか、生きるか死ぬか…。嫌われちゃったら…、ねぇ？どうしよう」
「どうしようって怖ぇよ」
「冗談ですよ」
「お前、全然冗談に聞こえねぇから」
「でも一君の事は、本気で、死ぬ気で好きです」