第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

会計を済ませて店を出た頃には20時近くになっていた。コンビニの駐車場以外は真っ暗で街灯だけが照らしている。

「もう体は平気か？」
「はい、もう歩けるので大丈夫です」
「顔色も戻ったな」
「あの時見つけてくれて本当に助かりました。じゃないとそのまま倒れて今頃病院のベッドだったかも」
「そう思うんなら自分の体調くらいちゃんと管理しろよ」
「そうですね。こっちはまだ寒いのかなって思ってたけど気をつけなきゃ」
「あと、体調悪いんだったら誰でもいいから連絡しろ」
「それって一君でも？」
「あ？……まぁ、そりゃ緊急の時にはいいけどよ」
「じゃあ！あの、l〇ne！交換してもいいですか！？」
「なんだよ、急に元気になったなお前」
「だってこんなチャンスもうないかもしれない」

慌ててスマホを取り出してメッセージアプリを起動させ“お願いします”と目を輝かせる。

「用事があるときだけ連絡しろよ」
「もちろんです！迷惑になるようなことはしません」

“仕方ねぇな”と言いつつもこれからもこっちで住むんなら連絡手段くらいは確保しておいた方がいい。及川だって柳瀬を狙ってるみたいだし、ややこしいことも増えそうだからな。

俺もメッセージアプリを起動させて、互いの連絡先を交換し画面に柳瀬のアイコンが表示される。

「一君のアイコン、怪獣なんやぁ。うわぁ、めっちゃ可愛い」

表情を崩しながらイントネーションは完全に関西弁でふいに見せる違う顔に戸惑う。