第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
そんな思いまでしてこんなとこに来なくてもよかったんじゃねぇかって苦笑する表情を見るとそう思う。変な奴、案外普通に話せる奴、時々毒舌になる奴、んでどっか可哀想な奴…、まぁ結局はよく分からねぇんだけど…。
「なぁ。それ、お前の晩飯?」
「そうですけど?」
「そんなんでいいのか?」
「これも結構美味しいですよ?」
「いつもこんなのばっか食ってんのか?」
「いえ。初めての一人暮らしで色々揃えるのに予算オーバーしちゃって…」
「そんなもんしか食えねぇくらいに金ねぇのか?」
「実は仕送りの日までまだ一週間くらいあって。それまではしばらくはカップ麺かも…。恥ずかしながら」
「そんなんなら土産なんて買わなくていいのに」
「それは別です。ちゃんとしないと、そういうとことろは」
「だったらなんか作って貰えば?」
「誰にですか?」
「うちの親」
「え、でも…」
「普通に心配すんだろ、そんな飯じゃ。なんか作ってもらうよう頼んどくから」
「え?」
「言っとくけど勘違いすんなよ。お前がこんな状況になったのも俺の親のせいでもあるんだから」
「いいんですか?」
「別にいいんじゃねぇの」
「あ、でも、これどうしよ…」
見つめた先にはカップ麺。そういえば飯の途中だった。手に持ったカップ麺はまだ手をつけていない様子。
「これ食べちゃうとお夕飯入らなくなる。でも捨てるのも勿体ないし」
「捨てるくらいなら俺が食う。腹減ってるし」
「まだ口はつけてないけど、でものびちゃってますよ?」
「いいよ。腹減ってるから何でもいい」
腹が減ってるのは本当のことだからな。受け取ったカップ麺は丁度よく冷めてて味も悪くなかった。無言で麺を啜りながら我ながら何やってんだと思う。けどなんか放っておけないところもあって複雑な心境だった。
「これ、結構美味かったわ。……じゃあな」
空になったカップを置くとこいつはまた嬉しそうに表情が綻んだ。