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(R18) kiss hug ❤︎ HQ裏夢

第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一


振り向きもせず急足でアパートから出た時、“待って”と一際大きな声がして声の方へ振り向くとあいつは俺を追いかけてきたいた。よく見れば裸足のままで少し後ろにサンダルが二足落ちている。その姿に俺はつい足を止めてしまった。

「でも手伝って貰ったし、朝はちゃんと話も出来なかったから…。一さんがいいならほんの少しだけ時間、もらえませんか?」

必死に繋ぎ止めようとする姿に俺は何故かこいつの表情がすごく悲しそうに見えた。情に流されることは好きじゃない。けど 思えば知らない土地に一人で来て、親同士が決めたことに振り回されてるのは俺もこいつも同じなんだよな。別にこいつが一方的に悪いとかそんなわけでもないんだし。必死で…、なんつーか、可哀想な奴なのかもって思えてくる。諦めるようにため息を吐きながら落ちているサンダルを拾ってこいつの足元に置いた。

「昼に限界までラーメンなんて食わなきゃ良かったわ」
「へ?」
「……喉、乾いた」

“へ…”と気の抜けたような声の後、みるみる頬は綻んで嬉しそうな表情へと変わっていく。たかがお茶くらいで大袈裟すぎねぇか?

「言っとくけど、茶飲んだら帰るから」
「はい。…ちょっと待っててください」

そう言ってサンダルを履き直しパタパタと部屋へ戻っていく。ちょっと覗いてみる程度の興味本位だったのにこんな気を遣うくらいなら来なきゃよかったと今になって後悔していた。

「荷物、ありがとうございました」

すぐに戻ってきてペットボトルを受け取るとまた深々と頭を下げる。

「そんな礼言われることなんもやってねぇから」
「あの、良かったら中入りますか?まだ片付いてないですけど」
「いや、ここでいい」
「お茶もごめんなさい、冷えてなくて。冷蔵庫がまだ使えないから」
「いいよ、別に」

生ぬるいお茶が喉の渇きを潤していく。なんとなく気持ちが落ち着いていく。

「お前、なんで俺の事が好きなわけ?俺がすっげぇ酷い奴かもしれねぇのに。何の保証もないのに馬鹿みたいに信じてるお前の神経が俺には理解できねぇ」
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