第71章 ❤︎ 彼女のお世話係な彼氏岩ちゃん
見慣れない他人の脱衣所に椅子を置いていちかを座らせた。今日使わなかった短パンをタオルの上に置きながら、甘い洗剤の匂いの中にいちかのいつもの匂いも混ざっていることに気づく。こんな時ですら五感はいちかの存在を探してるみたいで呆れる。
「さっさと済ませるぞ。俺も短パンに着替えるから」
「うん。じゃあ脱ぐから、一応あっち向いてて」
「ん…」
いちかに従い、背を向けジャージを脱ぎ捨てた。短パンに着替えながら気付いたのは目の前には洗面台にいちかの後ろ姿が映っていること。華奢な背中とSを描く滑らかなラインに白い肌。一瞬、時が止まったように感じたのは体を重ねたいつかの光景が蘇ったから。このままいちか抱きしめてベッドに連れて行って抱いてしまいたい、湧き上がる欲は確実に心にそう訴えている。
「やべー…」
「え?何?」
「いや、なんでもねぇ。それより脱いだのか」
「うん」
「じゃあさっさと済ま…」
「ねぇ、一」
「なんだよ」
「やっぱ1人で入る」
「は?」
「なんか恥ずかしくなってきた」
「今更なんなんだよ」
「だって明るいし」
「あのな?いちかの裸何回も見てると思ってんだ?」
「そうだけど…。でも、なんかやだ」
「バスタオルでも巻けばいいだろ」
「あ、そっか。そうだよね。バスタオルなら濡れても平気だもんね」
「巻いたら呼べ」
「うん」
〝もういいよ〟の声に振り返ると白いバスタオルに包まれたいちかはまた両手を広げて俺を待つ。いちかがたまらなく馬鹿みたいに可愛く見える。俺だけにハグを求めて俺だけが許される特別な瞬間を味わうように腕に抱える。
「好き」
「へいへい」
「あ、はぐらかした」
「さっきも言ってただろ」
「だってそう思うんだもん。優しい彼氏でよかったって」
「そりゃよかったな」
「ずっと好き」
「どーも」
いちかの言葉は本当は心底嬉しい。及川だったら〝俺も好き〟とか簡単に言葉に出せんだろうけど、そう簡単に言葉にもできなくて今は本心を読まれないように表情に出さないようするので精一杯だ。いちかを抱き抱える腕に力を込め浴室のドアを開き、中のシャワーチェアに座らせた。