第70章 ❤︎ 射精管理 二口堅治
「ちょっと見ない間に本当に格好良くなったね」
ゆっくりと唇が動くのに目を奪われた俺の頬にいちかの手が触れ、次に感じたのは柔らかな感触だった。
「な…」
発した言葉はいちかの唇に吸い込まれるように消えていき、ぷるんとした唇に塞がれた。何が起こっているのか理解できていない脳内は束の間の出来事ですら整理できずにフリーズしている。
「ごめん、堅治君に許可取ってなかったね」
申し訳なさそうに視線を逸らしたその表情は頬が紅く紅潮している。
「でも彼女いないんだからキスくらいいいよね?」
「いないとはまだ言ってないけど」
「そうだっけ?でも私が相手なら、彼女がいるならいるってちゃんと言うでしょ?何年一緒だったと思ってるの?」
「最後まで言わせなかったのはいちかだろ?」
「だって堅治君がいつまで経っても私の気持ちに気付かないからだよ」
「気持ちって何?分かんねぇし」
「用事を頼まれたからって言うのもあると思うけど、どうしてここまで来たの?りんごなんて玄関に置いてそのまま帰ればいいじゃない。お茶だって断ってくれて良かったのに。今、なんで私と2人きりでいてくれてるの?」
「成り行きだろ」
「2人きりなんだから下心くらい持ってて欲しいもん」
そう言うと名前はもう一回唇を重ねてきた。逃げようと思えば逃げられるスピードなのに体は正直で心の中にあった数パーセントの下心に従順だ。ただ自分にとってのファーストキスが幼馴染に奪われるとは夢にも思わなかった。
「さっきの全部嘘でしょ?」
「何が?」
「鎌先さんだっけ?堅治君の先輩の…」
「あー……、まぁ全部が嘘じゃないけど」
「やっぱり…。堅治君の嘘なんて私には通用しないよ?」
いちかの口角が上がる。この笑みですら見つめられると何も言い返せない。
「それでね、確信したの」
「何をだよ」
「きっと私のことは嫌いじゃないんだろうなって」
図星だった。むしろ嫌いじゃないレベルではない。自分の心の中のざわつき様がいちかに伝わってしまわないように平静を装うのが精一杯だ。