第12章 春疾風
実弥side
昨夜は思いがけず花耶が指を絡ませてきて焦っているうちにすやすやと寝息が聞こえて安心したのも束の間。
しばらくすると、
「やめて…来ないで…。」
と花耶が言い出して、一瞬俺の事かと慌てかけたがどうやらうなされてるようだと花耶の手をぎゅっと握り返す。
それでもなかなか止まないうなされ方に思わず、花耶をぎゅっと抱きしめて己の布団の中へ動かす。
(昔、弟や妹が眠れねぇ時もこうしてやったなァ…。)
懐かしさともに辛い記憶が胸を抉る。
抱きしめても尚、苦しそうな花耶の頭を撫でる。
あの日、花耶を助けた日
花耶は「やめて、来ないで…。」って鬼に詰め寄られていたっけ。
(そんな苦しそうな顔をするなァ。花耶、醜い鬼は俺が殲滅してやる。)
ようやく表情が和らいだ花耶をみて安堵していると、
「…ありがとう。不死川サン。」
と寝言を呟く花耶。
「アァ。当たり前だろォ。」
夢の中の俺は、ちゃんと花耶を助けに行ったらしい。
俺は花耶をもう一度抱きしめた。
この手から溢れぬように、何度でも助けられるように。