第11章 桜春夜
早朝
目を開けると薄暗くてよく見えないけれど間近に温もりを感じた。
(そういえば、昨日不死川サンのお隣で寝る事になったんだ…。)
ぼーっと昨晩のこと思い出す。
そして、悪夢を見たことも。
ようやく薄暗さに目が慣れると、寝巻きの襟元とそこから覗く不死川サンの鎖骨と首筋。
「…近っ。」
思わずそう呟いた瞬間、
「…ん。」
と不死川サンがもぞもぞと動いてゆっくりと目を開ける。
「花耶おはよォ。もう朝かァ?」
「し、不死川サンおはようございます!」
離れようとしたのに、さりげなく背中に回された不死川サンの右腕に阻まれる。
「よく眠れたかァ?」
不死川さんの胸元に顔を埋めている格好になっている私が見上げるとそこにはちょっぴり心配そうな顔をした不死川サン。
そういえば、昨晩は鬼に襲われた日の夢を見たんだった。
最近見ていなかったけれど、何度見ても断片的な夢。
いつも鬼が目前に迫ったところで終わる。
「ごめんなさい。私、寝言ひどくなかったですか?」
仲間の隠したち曰く、その夢を見た晩の私は魘されて、寝言を叫んでいるらしい。私自身も何度も目が覚めてしまう時だってある。
幸か不幸か鬼殺隊には同じ境遇の者も多く珍しくはないのだけど。
「ンなことねェよ。」
不死川サンはそう言って、ぎゅっと抱きしめてくれたのだった。
(きっと目が覚めなかったのは、不死川サンがギュッてしてくれたからだろうな。ありがとう、不死川サン…。)
鬼との戦闘のたびに朝日を待ちわびる私たちだけど、微睡みの中で不死川サンの温もりに包まれた私は初めて、
“もう少し待って“
とわがままを言いたくなったのだった。