第11章 桜春夜
ー実弥sideー
翌朝
俺は、朝メシを食おうと台所に向かった。
(花耶は、まだ寝てっかァ…?)
居間を覗けば、朝食が一膳並んでいる。傍に一枚の紙が添えてあり、思わず“家出”の2文字が頭をよぎる。よもや1日で…。恐るおそる紙を覗き込むと
“おはようございます。お仕事に行ってきます。”
という書き出しに、一先ず家出ではなそうだとホッとする。
その後には、今日から訓練を再開すると伝えた俺の分も昼の握り飯を用意したから、良ければ食べてほしいと書き添えられていた。
(ったく、いい女に惚れちまったもんだなァ…。)
そばに居られるようになっただけで十分なのに、朝から花耶の気遣いは細やかで幸せ浸る。
(さて、今日は鈍った体動かすかァ。)
花耶が用意してくれていた朝食を食べ、庭に出るといつもの稽古台に竹を立てて、ひたすら斬り込む。
「風の呼吸 壱の型 塵旋風・削ぎ…」
砂埃と共に竹がスパッと綺麗に切れていく。
傷が少々痛むし少し体も鈍ってるが、まぁなんとかなるだろう。
斬り込み練習もひと段落し、体の感覚も取り戻したところで家を出る。
昨日処理した報告書で気になった集落までひとっ走りする。そんなに大規模ではないようなので、一先ずほかの隊士を向かわせればいいだろう。
そろそろ昼頃になり再び屋敷に向かいながら、せっかく花耶が握り飯にしてくれたから外で食べようと思いよく行く小さな神社に立ち寄る。
(この神社、花耶が隠しとして初めて手当てしてくれた時また会えますようにって祈ったりしたなァ…。俺の女になったんだァ。御利益ありすぎだろ。神様に礼言わねぇとなァ。)
と賽銭を入れ手を合わせる。
(お陰で願いが十分すぎるくらい叶いました。花耶は、俺が幸せにします…。)
お詣りを終え石段に腰掛けて、握り飯の包みを広げると、どこからともなく白い犬が近寄って来る。
「なんだァ。オメェも腹減ってんのかァ?」
ご飯粒を数粒手にとり、犬に差し出すと嬉しそうにペロペロと食べ出す。
「うめぇだろ。花耶が、作ってくれたんだから大事に食えよォ。」
と言いながら、犬を見つめる。
「ほんとうまそうに食いやがってェ。」
右手が空いたところで俺も握り飯を頬張った。
(帰りにおはぎでも買ってくかァ。)