第10章 さくらさく
花耶が住んでいたのは長屋。
花耶曰く、隠しも多く住んでいるらしい。花耶は、鬼に襲われて、ほとんど身一つでここに住んだのかと思うと胸が痛む。
「狭いですが、どうぞ。」
と遠慮がちに声をかけられ、
「アァ。お邪魔するなァ。」
と言って境を跨いだ俺の脳内にふと昔のことが蘇り茫然としてしまう。
(懐かしいなァ…。)
家族と過ごした長屋。懐かしさと同時に、鼻の奥がツンとしていると、
「あ、でも本当に狭くて、ごめんなさい。あの、適当に座ってください。」
と突然花耶に声をかけられて我に帰った。
今は柱となって無駄にでけぇ屋敷に住んでいるが、こっちの方が懐かしい。
「何謝ってんだァ?いいから、薬箱だけじゃなく花耶の支度もしろよォ。まぁ、1、2週間くらいかァ。」
と花耶の支度を促す。
しばらくして案外支度の早かった花耶に
「お待たせしました。」
と声をかけられ、荷物を持ってやろうとすると、隠しの自分にとって薬箱は大切だから自分で持つと言う花耶の気持ちが眩しく、また惚れ込んでしまったのだった。