第10章 さくらさく
色々考えているうちにかなりゆっくり茶を入れていることに気づき、怪しまれねぇように急いで花耶のもとへ戻る。
(理性だァ、理性…。)
と自分に言い聞かせながら、平然そうに花耶へ茶を差し出す。内心は、花耶にどう切り出せばいいか考えを巡らせる。
花耶は、相当喉が渇いていたのか、茶を旨そうに一気に飲み干すと、さっきまで俺と同じように照れくさそうにはにかんでいた表情を整えて、
「手当ての道具を揃えたいので、一旦自宅に帰ります。夜分にもう一度お邪魔しますね。」
と冷静に言う。
俺はこの機を逃すまいと、
「俺も行く。」
と咄嗟に花耶に伝えると、花耶は一瞬驚いた後に、何を言い出すんだという目で俺を凝視する。
(俺は、花耶の身の安全を思って真面目に言ってんのになァ…。)
あまりに凝視され、
「ンな顔するなやァ…。」
と呟いてしまう。
花耶は、まだ俺に怪しそうな目を向けてはいるものの、
「ごめんなさい。」
と謝ってくれ、さすがに今の一回で嫌われてはないだろうと胸を撫で下ろす。一旦落ち着いて、
「あのよォ、この任務の間は出動は無いんだろうォ。」
と花耶に切り出す。
「はい、昼間だけ雑務や訓練に向かいます。」
案の定、夜中に花耶単独で移動する出動は無さそうで安堵する。
「出動ねぇなら、危ねぇし、わざわざ夜帰らなくてもいいだろォ。荷物取りに帰るの手伝ってやるからよォ。」
と改めて花耶に提案すると、
「不死川サン話す順番が…。あ、ありがとうございます。」
と言われてしまい途端に恥ずかしくなったのを隠すように、早く行こうとまだ俺が言った事を理解しきれていない様子の花耶を促す。ぼっーとしている姿が、可愛いやら、こちらの心配にそろそろ気付いてほしいやらで、俺はやれやれと立ち上がり花耶の家へと向かった。
しばらくして歩いているうちに、花耶が“俺の家に数日滞在するということ”を理解し、「申し訳ないから遠慮します。」と断ってきた頃にはもう決定事項だと言わんばかりに俺は、頑なに却下したのだった。