第9章 春を待って
ー実弥sideー
昨日、花耶を帰してから、今度ばかりは花耶と交わした“飯を食いに行く“という約束を果たすべく、俺は胡蝶に「とりあえず、早く家に帰りてぇ」と頼んだ。
胡蝶は、反対するかと思ったが、楽しそうな笑みを浮かべてあっさりと了承したのでむしろ気味が悪い。何を企んでいるのか。
翌朝、俺の様子を見に来た胡蝶に、
「今日からご自宅で過ごしていただいて構いませんよ。ちゃんと、治療してくれる方見つけておきましたので、その方に就寝前に傷の消毒をさせてください。」
と言われ、一先ず俺は見支度をする事にした。
俺の屋敷に誰か隠しを派遣するのだろう。
昨日の一件が恥ずかしかったのか今日は、花耶が来ないのが残念だ。俺が蝶屋敷を出ることも言えねぇし、任務に行かなきゃ、なんなら怪我をしなけりゃ、花耶に会えねぇんだろうか。
今日も来りゃぁ、飯の約束もできたかも知れねぇのになァ。
支度が整って胡蝶を待っていると、
「不死川さん、お待たせしました。」
と声をかけながら、胡蝶が入ってきて
「アァ。」
と返事をしながら部屋の入口の方を向くと、胡蝶に続いて花耶が部屋に入ってくるのが見えて俺は驚いた。
俺を家まで送れと頼まれている花耶。
いつもの俺なら胡蝶に“必要ねェ“とでも言い捨てるだろうが、今日は、
「胡蝶、世話になったなァ。」
と礼を言う。
胡蝶の企みとはこういうことか…。
胡蝶は、半分面白かってるだろうが今は花耶を呼んでくれた気遣いに感謝する事にした。
「行くぞォ。」
と声をかければ大人しく着いてくる花耶が可愛らしくて、ニヤけてしまう顔を必死に抑えながら俺は蝶屋敷を後にした。