第9章 春を待って
蝶屋敷に到着すると、早速胡蝶様が出迎えてくれて、
「胡蝶様、お待たせいたしました。あの、昨日は、申し訳ありませんでした。」
と昨日、爆睡してしまったことを謝る。
「木月さん、早速来てくださりありがとうございます。昨日の事は、お気になさらず。人間、休息は必要ですよ。っふふ。」
と胡蝶様は怒らずに優しい言葉をかけてくれ安堵する。
むしろ、少し面白がっているように微笑むと、お仕事の顔に戻り、
「不死川さんには、今日からご自身のお屋敷で療養していただく事になりました。」
「はい…。」
(お見舞いもう要らないのか…。不死川サンとお会いできる口実無くなってしまうしちょっと寂しいけど、それをわざわざ?)
「あまり嬉しくないようですね。」
と胡蝶様に顔を覗き込まれドキッとしてしまう。
本来、自宅で過ごしても良いという事は、怪我の状態が良いという事でもあり、喜ぶべきところだ。特に、手当てを専門としている隠しとしては尚更だろう。胡蝶様に、失望されてしまうかもしれないなんて考えてしまい微妙な表情の私を見ても胡蝶様は、怒ったり失望したりするどころか微笑んだままで、
「そこで、木月さんの出番なのです。木月さんは、優秀な隠しの方だとお聞きしましたし、今回の傷の止血や他の傷の手当ても的確で私も感心しました。」
(柱、さらには薬や治療の技術に優れた胡蝶様からのもったいないくらいの嬉しいお言葉…。)
「もったいないお言葉…、ありがとうございます。」
「それで、木月さんには、不死川さんの傷の消毒と経過観察をお願いしたいのです。私も任務があるので、木月さんにお願いできればと思うのですがいかがでしょう?」
「かしこまりました。」
「ありがとうございます。そうそう、できれば就寝前の消毒が良いので上官には私からお伝えしてあります。しばらくは、現場への出動はなく、時々日中の雑務と手当て訓練に参加してくだされば良いそうです。不死川さんは、利き手も使えますし、日中の日常生活は出来ますから。」
「はい。」
私が返事をすると、胡蝶様は、
「では、木月さん。不死川さんをお迎えに行きましょう。」
と楽しそうに笑うのだった。