第5章 素敵な人ですね
店員さんにお礼を言い、店を出る。
私たちを本当の恋人だと思っている店員さんは、
「お買い上げありがとうございました。お幸せに!」
と送り出してくれ、また照れてしまう。
「あ、あの。簪本当にありがとうございました。」
「アァ、いい。もうちょい付き合えェ。」
もう少しこのままでいられることに照れてしまい、
「…は、はい。」
と返事が辿々しくなってしまうと、
「俺と歩いてるのを見られちゃ困るわけでもあんのかァ…?思い人とかヨォ…。」
と不死川さんは、急に申し訳なさそうに聞いてくる。
今まで見たことのない表情をする不死川サン…。こんなの先輩が見たら、むしろ怖いと叫び出しそうだ。
「いえ、そのような方などおりません。不死川サン、次どこ行きますか?」
(任務といえどそんなことを気にしてくれる不死川サンは、優しい。本当は私も聞いてみたいんだけどな…。)
いつもの不死川サンに戻ってほしくて話題を変える。
不死川サンは、少しホッとしたような顔をしてから、真剣な眼差しになって、
「街の外れが怪しいらしい。はぐれるなよォ。」
と言って歩き出す。
私は、はぐれてしまわないように不死川サンの真横にピッタリとくっついて歩いた。いつもじゃ、考えられない距離なのに落ち着く。
街の外れに近づくにつれて、事件のせいもあるのか人もまばらになり、お店も閉まっているところが多くなる。
お互い黙って歩いていると、
「この任務が終わったらよォ…。おはぎ食べに行ってくれるかァ。」
「はい。この前からずっと楽しみでした。」
そして、もう誰も周りにいないのに、勝手に恋人設定が続いてることにして、
「不死川サンは?」
なんて聞いてしまう。
不死川サンは、照れながらも、
「アァ、楽しみだなァ、花耶とおはぎ…。」
と言う。
(不死川サンの中でも恋人設定続いてるみたい。)
「約束ですよ。」
と言いながら喜びが溢れてふふっと不死川サンに微笑むと恥ずかしそうに顔を背けられてしまった。