第5章 素敵な人ですね
私の止まっていた頭が、だんだん動き出し、
(不死川サンの到着を先輩に知らせなきゃ…)
と店から出ようとした腕が捕まえられて、
「待てェ。」
と一言、そして少し声を落として
「まだ偵察だァ。俺、1人より目立たねぇだろォ。ちょっと付き合えェ」
私は、任務ならばと仕事の顔になり、
「はい。不死川様、かしこまりました。」
と返事をする。
「ンな、不自然だろがァ。不死川様も禁止だァ。」
と言われてしまう。
私は、少し考えてから自然に見えるよう微笑んで、
「不死川サン、わかりました。」
と伝えると
「あ…アァ」
と言いながら、さっきの簪を手渡される。
「あ、ありがとうございます。お代を…」
「んなモン気にすんなァ。」
もう一度、不死川サンの顔を見てお礼をいう。
素敵な簪、素直に嬉しい。
すると、先ほどの店員さんがやってきて、
「よろしければ、髪に。」
と言ってくる。
(不死川サン急いでるかな…。せっかくだししたいなぁ。)
と悩んでいると、またもや考えていたことがバレたようで、
「花耶、してもらえ待っててやる。」
店員さんの前だからか急にきちんと話す不死川サンに、思わずときめいてしまう。
(ん?今すごい恋人っぽかったんだけど!?偵察にお供するって、“恋人設定で”ってコト?なんで私の名前知ってるんだろう…。)
店の丸椅子に座り、髪を整えてもらいながら思考は混乱状態だ。店員さんは、そんな私に気づいていないようで、
「素敵な方ですね。」
とニコニコとそんなことを言われてしまう。
「は、はい…。」
(不死川サンは、素敵な人だ。でも、店員さんが考えているであろう関係などでは…)
とりあえず、言葉通り“素敵な人”という部分に返事をすると店員さんは、続けて、
「最近この辺り、物騒だから調べてるって、貴女の事が心配だからって、素敵!」
(不死川サン、演技上手なのね。まぁ、お仕事だけど、でも今の話とかさっきの「待っててやる。」とか、嬉しいかも。)
なんとも複雑な気持ちを抱える私をよそに、
「出来ました。可愛らしい、きっと彼も喜ぶわね。」
と店員さんに微笑まれる。
(せっかくの不死川サンの演技無駄にするの申し訳ないし…。ちょっと楽しかったりもするし…。)
と私は、恋人設定な偵察に乗っかることにしたのだった。