第5章 Season 1 ふたり目
「今日は夜バイト出るんだっけ?」
「そうですね。行きます」
「そんで、今は誰もいないのよね?んじゃー紘はまた次の機会までお預けってことね。どーせ生理がこなきゃピル飲みはじめられないらしいし」
と順さんは笑った。
いや、でもあいつのことだから無理矢理にでも今日仕掛けてくるかしら、と乃々の頭を撫でながらぶつぶつと言っている。
私はなんと反応していいものかわからず、黙り込んでしまった。
乃々を順さんに預けて、私は婦人科に行くことにした。
乃々を産んで以来こういう病院には縁がなかったから、少し緊張した。
今朝、治さんには、PMSが酷いから病院に行くと一応言ってはみた。
どこか後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。
だけど、治さんは別に何の疑いもしないし、心配するような言葉さえもかけてもらえなかった。
あなたがそれでいいんなら、いいんじゃない?そんな感じ。
思ったより早く病院が終わり、順さんにメールを打つと、『まだ乃々と楽しんでる最中だから邪魔しないで。あんたもたまには一人の時間を満喫しなさい』と返され、いきなりのことに何も思いつかないし、久々の病院にすこし疲れてしまったので、家に戻る事にした。
玄関の鍵をあけてドアを開けると、家を出るときにはなかった靴がある。誰かもう帰ってきてるのかな?と思いながらリビングに入ると、
「やっほー、慧ー」
紘がソファーに座ってテレビを見ていた。
「あれ?どしたの?今日仕事あるって言ってなかったっけ?」
朝普通に出て行ったよね、と疑問に思っていると、
「早退してきちゃった」
と笑った。
「そっか。調子良くないの?コーヒーでも飲む?」
聞きながら、私はキッチンに行き、コーヒーメーカーをセットしていると、
「どっか、行ってたの?」
紘がテレビを消して私のほうに向き直り聞いてくる。
「ん?あぁ、病院」
「どっか悪いん?」
「いやいや、これもらいに行ってたのよ」
鞄の中から出した薬の入ったケースを見せると、なにそれー、見せてーと手を伸ばす紘。
ケースを紘のところまで持っていくと、中から錠剤が連なったシートを引っ張り出し、
「何の薬?」
首を傾げたから、
「さぁー何でしょうー」
私はごまかした。