第4章 Season 1 きっかけ
「あと、今貴女がこうやって心配されてモテるのは、貴女が結婚してるから、よ。そこ忘れちゃ駄目。結婚してるってのが魅力を倍増させてるの。だから絶対に離婚してどっちかとくっつこうなんて考えちゃ駄目よ。いい?じゃあとりあえず自分の身体は自分で守りなさい。慧ちゃん、明日婦人科に行って薬もらっておいで。最近はそんなたいそうな理由じゃなくてもピルくれるから。あたし明日の昼間は空いてるから、その間乃々みててあげるし。とにかくやってみなさいよ、楽になるから」
特に前半部分を、私の耳元に顔を近づけて、私だけに聞こえるように順さんは言った。
順さんは、きっと私と違う次元で生きてる人なんだろうな。
順さんにとって、こういうことって多分そんなに悪い事じゃないんだろう。
そして、あまりに最近悩みすぎてた私は、順さんの提案した妙な関係作りに乗る事にした。
「駄目だと思ったらすぐやめなさいね。下手にずるずるいくと後が面倒だから。とにかく割り切るのよ」
そう言うと、さぁ、呑みなおすわよーとグラスにお酒を注ぎ始めた。
ほんとにいいのか、どこまでが正しくて、どこからが間違えてるのかは判らないけど、もうそれでいいような気がしてきた。
「ねー順さん、俺今すぐ慧抱きたいんだけど……」
「だめ。あんた、どこの高校生よ。明日まで待ちなさい」
「ちぇーっっ。つまんねーのー。つか何で明日ぁ?」
「理由なんかないわよ。今日はあたしと呑む日でしょ?ほら、呑んで呑んで」
紘は、順さんとまたお酒を飲み始めた。
私はちょっと、頭を冷やそうと思い、
「トイレいってきます」
と覚束ない足取りで席を立った。
紘や裕とキスしたときから、なんとなくそうなるんじゃないかなって予感はしてた。
でもそれはやっぱりよくないことなんじゃないかなってずっと思ってた。
だから、私から紘や裕に積極的にはなれなかった。
でも、今は治さんのそばにいるより落ち着く。
安心する。
それは間違いない。
「でもなぁ……」
はぁ、と溜息をつきながらトイレから出ると、裕がドアのそばに立っていた。
「……!!!びっくりした」
「いや、慧さん危なっかしいから、心配で見に来た」
言いながら、裕は私を抱きしめてくれる。すごく優しく包み込むように。