第4章 Season 1 きっかけ
「あたしも昔あったんだけど、勇気出して誘ってるのに、断られたら女としての自分を全否定された気がしてめちゃめちゃへこむらしいのよ。とくに慧ちゃんみたいに真面目一本な子はね。他に持って行きようがないじゃない?」
確かにそうだ。一回断られただけで、怖くなってなかなか次につながらなくなる。
「こういう問題ってさ、こじれるとなかなか修復できないのよね。内容が内容だけに……」
順さんの言葉が急に曇った。しかし、
「ふーん、そうなんだー」
それに対しての裕の返しはなぜだか妙に冷めている。
「でも、慧ちゃんは何回も拒否られてるわけでしょ?それってもうズタボロ状態じゃない?」
「……えぇ、まあ……」
「……旦那さんって、慧ちゃんの事嫌いなのかしら……」
「いんや、俺にはそんな風には見えないけど」
「うん。たまに一緒に食事することあるけど、至って普通だよね。だから、俺には慧さんがなんで悩んでんのかいまいちわかってなかった」
こないだの事と、今の話聞いてて、もうわかっちゃったけど……と裕が言った。
「所有物って言うか、空気っていうか。自分の嫁っていうより寧々と乃々のお母さんって目でみてる気はするけどね」
「やっぱり子供産むと女として見れなくなるものなのかなぁ?」
「まぁ、それってよく聞く話ではあるわよね」
私はグラスを両手で持ったまま黙りこんだ。
「そんな暗い顔しないのっ」
言いながら順さんはそんな私の背中を叩いた。
「はい……。でもじゃあ私はどうしたらいいんでしょう?」
「べっつに今以上どうもしなくていいわよ。慧ちゃん悪くないもの。ってか、この期に及んでまだ旦那さんに抱かれたいと思うわけ?」
そう言われるとなんとも言えない。
もう、治さんのことはどうでもいいような気もする。
「ところで慧ちゃんはさ、旦那さんの前の男っているの?」
「……そりゃあ……まぁ」
「何人?」
「それ、言わなきゃだめですか?」
「だいたいわかるけどー」
「ならいいじゃないですか。多分わりと正解ですよ」
「じゃ、ひとり、ね」
「……!」
「あらぁ、当たっちゃった?」
順さんは、ものすごく嬉しそうに私の顔を覗き込んでくる。