第3章 Season 1 尋問
「……っっ」
背中に回っていた裕の右手が、私のエプロンの上を這い始めた。
「……や……め……」
キスの合間に必死で抵抗しようとするが、うまく言葉にならなくて。そこに、
「ねー、慧さーん、たまねぎもレタスも終わったんですけどー、次何したらいいですかー?」
階段を上がりながら叫ぶ翼の声が聞こえてきた。
その声に、裕の手が止まり、唇も離れた。
「私……料理してるんだった……戻らなきゃ」
裕に、どいてくれと目で訴えると、裕も正気に戻ったのだろう、身体を起こして、私を解放してくれた。
「……えっと、話してくれてありがとう。あの……なんかいろいろごめん。……ごはんできるころに下りてきて」
やっとの事でそれだけ伝えると、裕の部屋から逃げるように飛び出した。
エプロンをはたきながらドアを閉めると、ちょうど上まで上がってきた翼と目が合った。
「なんか、あったんですか?」
「う、ううん、なんにもないよ。ごめん、なんか面倒な事話しちゃったみたいで」
翼に謝ると、歩みを速めて翼の横をすり抜け階段を下りた。
「……慧さん、髪ぐしゃぐしゃー」
笑いながら翼が私の横に追いついて、後頭部をなでてきた。
「え……!?」
その言葉に、私は思わず階段を下りていた足を止めてしまう。まずい、頭まで気が回ってなかった。
「ね、慧さん」
階段の途中で、翼も歩みを止めて、私を正面から見つめてきた。
「裕たんだけじゃないんですよ?心配してるの。……いっぱい頭なでてもらったんですね。もう大丈夫ですか?」
そう言って、また私の後頭部に手を伸ばして髪を整えてくれる。あれ、翼はなにか勘違いをしてる……?それからまた言いにくそうに、
「……僕、実は見ちゃったんです。紘くんにキスされてたの」
「あ……」
「ま、口じゃなくて、ここだったんですけどね」
と目元を指差す。あぁ、夜中のほうか、とちょっと安心した私に、
「癒されました?」
「え?」
「紘くんにキスしてもらって、裕たんに頭なでてもらって……」
「……僕にも、できること、ありますか?」
「……」
「僕も慧さんのことが心配なんです。だから……」
貴女を癒してあげられるのは、僕にも出来るはずです、と翼の唇が私のおでこに触れた。