第2章 Season 1 夢のあと
深夜のバイトから帰ってきて、おかえりといわれた事はほとんどなかったから、なんだかくすぐったく感じた。
「うん……ただいま……」
先日までなら、こうやって部屋を訪れることがあったとしても何も思わなかったかもしれない。
けど今日はなんだか違った。
意識の問題なのだろうけど、どうしても緊張してしまう。
せっかく紘はいつも通り接してくれてるのに、これじゃ台無しだ。
部屋の奥の紘のベッドまで歩かされ、そこに座らされ、そして、隣に紘が腰掛けた。
「なんかあったの?こんな時間に呼び出して」
私は、沈黙が怖くて紘にそうたずねた。
「いんや、なんもないよ。ただ、慧に会いたかっただけ」
笑顔で紘はそう答えてくれたが、
「そっか……」
うまく言葉を続けられず、私は黙ってしまった。
「今日、仕事どうだった?」
「うん?結構忙しかったよー。新しいお菓子がいっぱい入ってね、並べるのがすっごく楽しかったの。新商品が山のように積んであるのって壮観じゃない?」
「壮観って……。そっかぁ。へー、忙しかったんだぁ。んじゃ、仕事中に昼間のこと思い出したりはしなかった?」
「!!?」
驚いて目を見開いた私を見て、紘は笑いながら続け、私の頬は少し熱を持ち始めてた。
「俺はねーもう、気が気じゃなかった。高校生かってくらい慧にキスしたくてしたくてしかたなかったよ」
ね、慧は?と紘は私の目を真正面から見つめながら聞いてくる。
目を……そらせない。
「……」
そんなの、答えられるわけないじゃない。
私もそうだったなんて、答えたら多分もう取り返しがつかなくなる。
自分から言わなければまだ戻れそうな気がしていた。
「ちぇー、俺だけなのー?」
紘がつまらなさそうにつぶやく。
それでも私はうんとも違うとも言わなかった。
「ま、いいや。とにかく俺はそう。ちゃんと思ってること言葉にしたからいいよね?」
そう言いながら、私の肩をとんっと押した。
私の身体は、その衝撃にそのままベッドへと倒れこみ、そこへ紘がかぶさってきた。
「あ……あの……」
「慧……目、閉じて」
私の名前を呼ぶと、紘は顔を近づけてくる。
ベッドに押さえつけられて、私は完全に逃げ場を失った。