第2章 Season 1 夢のあと
やっぱ、来ちゃいけなかったかも、と後悔しても後の祭り。
反射的に目を閉じてしまう私に、
「口、開けて」
口の端を指でつつき促した。
「……?」
恐る恐るわずかに開けた口の中に、紘の舌じゃない、何かが押し込まれた。
思わず目を開けた私に、
「ご褒美」
へへーだまされたー、と紘はいたずらが成功した子供のような顔をして笑っていた。
「何……?チョコレート……?」
口の中で溶け始めたその塊は、どうやらチョコレートのようだ。
「おいしー」
チョコレートが好きな私は、予想外の展開ながらも、思わず嬉しくなって笑顔を作ってしまった。
「だろ?こないだお土産にもらったんだけど、おいしかったから慧にもわけてあげたくてさ。正直ちょっと別な事期待した?」
「え?」
身体をベッドから起こしながら、そう問われ私の心臓はどきんっと大きく跳ねた。
「いや、期待というか、あの状況じゃ身構えるでしょ?普通……」
「そっかー。ごめんごめん」
適当にごまかす私に、ざんねーん、と紘は笑った。
「慧が、期待してたんなら、しようかと思ったけど」
「結構です。……そういえばねー、私のバイト先の順さんって判るよね?」
「うん、知ってるよ。俺も昔からよく世話になってるもん。祥さんと順さんって昔っからワンセットって感じだよな。あの二人が一緒にいたら、ぜってー敵わない」
「そっか。そんでね、順さんが今度うちで呑み会したいって言ってたよ。なんかみんなで騒ぎたいみたい。でもえっと、いつだったっけ……?確か来週末とか……?」
「へー。面白そうじゃん。ちゃんとした日程思い出したらメールでも入れといてよ。帰れるようにがんばっから」
しばらく、他愛もない話をしていたら、だんだん私が眠たくなってきてしまった。
「もう、寝る?」
「うん。寝る」
私は、そう言うとベッドから立ち上がった。
「お邪魔しました。おやすみ。チョコレートありがと」
そう言い残してドアに向かい、ドアを開けると、
「おー、おやすみー」
そこまで追いかけてきた紘は、私の目元にそっと唇をつけて離した。
「もーやめてよ」
そう言いながら部屋を出てドアを閉めると、また、音を立てないように自分が寝る部屋に戻り、布団の中に潜りこんだ。
隣で寝息をたてている乃々の体温が心地よかった。