第2章 Season 1 夢のあと
順さんは、私よりも五つくらい年上のお兄様。
声は渋くてかっこいいのに、なぜかおネエ言葉でしゃべる。
昼間は何か別な仕事をしていて、夜だいたい私と同じくらいの時間にここで一緒に働いているのだ。
はじめは何だこの人、と戸惑ったものだ。今はもう、慣れて、特に気にもしなくなったけれど。
「おかげさまで」
「あらぁ。なんか血色よくなったんじゃない?何かあった?」
事務処理を終え、私の顔を見ながら目を細めた順さんに言われ、ドキッと心臓が跳ねた。
「やだー。男ね。うらやましーい、わかりやすーい」
順さんは笑った。
たぶんこの人には何もかもお見通しなのだろう。
だから下手にごまかさずに、首を傾げるだけにした。
「あたしねー、慧ちゃんの恋愛話とかそういうの、もっと聞いてみたいのよ。何度かそういう話したことがあったけど、実際あんなの一部でしょ?ねぇー今度慧ちゃんちに呑みにいってもいい?」
「あはは。面白い事なんか一個もないですよー。うち、冷め切った仮面夫婦ですし……。それにうちいっぱい同居人がいますけど、それでよければどうぞー」
「あー、あいつらねー。あいつらならあたしも昔から知ってるし、かまわないわよぅ。みんなで騒ぎましょ」
順さんが嬉しそうにそう言いながらフロアへと出て行くと、入れ替わりに祥さんが入ってきた。
祥さんは今日は朝から入っているみたいだ。
「おはよう、慧ちゃん」
「おはようございます」
「今日は、結構忙しいよー。頑張って」
「はーい。気合入れていきまーす」
答えると、私もフロアへと出た。
祥さんの言ったとおり、本当に忙しかった。
ほんとに4時間だった?と言えるくらいあっという間に時間が過ぎた。
私のシフト中にやらなければならないことがちょうどきっかし終わった感じ。
こういう日はすごく気分も良かった。
バイトが終わり、帰る準備をしていると、バイトが始まる前に話したことを忘れていなかったのだろう。
順さんがシフト表を見ながら私も順さんも休みの日を探していた。