第2章 Season 1 夢のあと
夜、子供たちを寝かしつけ、バイトに出る準備を始めた。
風呂に一度入ったあと、また化粧をするのは少し複雑な気分だ。
着替えをして、身支度を整えて。
もうすぐ家を出る時間だな、と時計を確認した。
今日も治さんはまだ帰ってきていない。
最近は遅い日が続いているように思う。
こう遅い日が続くと、まともな会話すら交わせていない気がする。
でももう今更特に伝えたいことも思い当たらなかった。
今日は上の住人らはもう既にみんな帰ってきて、食事をとり、それぞれの部屋に戻っていた。
家に誰かがいてくれる状態で子供を置いて出るのは、そうでないときに比べてすごく気持ちが安心した。
何を期待するわけでもないが、誰もいないよりは、すごく頼りになった。
「よし、がんばろ!」
鏡を見直し、気合を入れると鞄を手に取り、玄関へ向かった。
そこで足音がした気がして、振り返ると、
「……紘?」
「仕事、行くの?」
「うん。行って来ます」
階段から降りてきた紘に笑顔でそう答え、私は靴を履いた。
「そっか。気をつけてね」
「了解!」
背中越しにそう言って、立ち上がった私の腰をぐっと抱き寄せると、紘はキスをしてきた。
「……!?」
「いってらっしゃいのキスー。がんばってこいよー」
そう笑いながら私を放すと、手を振ってくれた。
また突然妙な事をする、と抗議をしたかったものの、遅刻するわけにはいかないので、そのまま玄関をあけて外に出た。
昼間は暖かくなってきたのに、夜はまだひんやりと冷たかった。
バイト先のスーパーまでは自転車で通ってる。
そんなに遠くはないのだが、徒歩で行くよりは安全だろうと自転車通勤にした。
まぁ、こんなおばちゃん相手にするやつなんか、大したやつではないだろうけど……。
約5分ほど自転車で走ったところに、私の働くスーパーがあった。
周りがほとんど暗い中、ポッとそこだけ切り取られたように明るかった。
店の脇に自転車を停めて扉を開けた。
「おはようございまーす」
挨拶をして、事務所へ入ると、
「あら、おはよう。元気だったぁ?」
声をかけられた。今夜は順さんもいるみたいだ。