第2章 Season 1 夢のあと
あのあと、紘はいたっていつも通りで、私に対してなにか仕掛けてくることはなかった。
寧々を幼稚園に迎えに行く時間になって、私は紘に乃々を預けて家を出るとすぐ先で、近所で仲の良いママさんに会った。
「こんにちわー」
挨拶をして、一緒に幼稚園へと向かった。
「あれー、今日乃々ちゃんは?」
「あ、家にいるもんが見てくれてます」
「あ、そっか。ご兄弟と一緒に住んでるんだったよね。いいなぁ、見てくれる人がいて」
我が家の家庭事情は、外では兄弟ということになっている。
二世帯住宅を建てたものの、当初の同居人に断られ、かわりに兄弟たちに空き部屋を貸し出してる、と。
どこまで本気にとってもらえてるのかはわからないけど、本当のことをわざわざ説明するのも面倒だし他人と住んでいると言って複雑にしてしまうよりは兄弟なのだと嘘をつくほうがよっぽど楽だった。
実際、私にも治さんにも男の兄弟はいないのだが。
「そういえば、このあいだ若いお姉さんが寧々ちゃんと乃々ちゃん連れて外散歩してたのみたよ。あれ、妹さん?」
若いお姉さん?……あ、もしかしたら翼かな。
「ええ、まあたぶんそうです」
私は、少し言葉を濁した。
確かに翼は可愛い。
私もはじめは女の子と間違えそうになったくらいだ。
華奢な翼は、たまにふらっと姿を見たくらいだったら、女の子と間違えても仕方がないのかもしれない。
何かおかしいな、と、笑いそうになるのを口の中でかみ殺した。
「そういえば、ユナちゃん、いるじゃない?」
「同じクラスの?」
「そうそう。お母さん、お腹に3人目がいるらしいわよ」
「え?そうなんですかぁ」
すごーい、気づかなかったーと、私は話を合わせた。
実はこの手の話は苦手だ。
だって、妊娠している=旦那さんにちゃんと愛されてるってことだから。
「うちもねぇ、もう一人くらいいたらいいなぁとは思ってるんだけど、なかなかうまくいかないのよねぇ」
とそのママは話す。
「今、女の子と男の子両方いらしてるんですよね?次はどっちがー、とかあるんですか?」
「うーん、やっぱりもう一人女の子がいたらいいなぁって思うわよぉ」
「へー。うちはもう、考えられないなぁ」
あははと笑うと、
「やだ、あなたまだ若いんだからわかんないわよー。気づいたらハイ妊娠してまーすってなるんじゃない?」