第2章 Season 1 夢のあと
「乃々が食うの隣でみーてよっと」
先ほど自分が座っていた席に座り、頬杖をついて乃々を眺めた。
「いたらきまーしゅ」
弁当のふたを危なっかしく開ける乃々を冷や冷やと見つめながら紘は、
「ねー慧、食後のコーヒーは?乃々は俺が見といてやるから、淹れてよー」
なんて私に向けて言葉を投げてきた。
いつもどおり、びっくりするくらい本当にいつもどおり。
「あー、はいはい」
途中で突っ立ったままになってた私は、紘の食べ終わった食器を回収し、キッチンに向かいコーヒーメーカーにコーヒーをセットすると、
「慧、いつもありがとうなっ」
はっきりと、私に紘はそう告げてくれた。
ただ、ありがとうって言われるだけでもこんなに嬉しいもんなんだ。
そして、まったく気まずい雰囲気にならない様にしてくれる、紘の大人な部分にすごく安心した。
「なぁんか、乃々に邪魔された感じになったけど、ま、心配しなくてもまたしてやっから」
にかっと歯を見せて笑いながら紘は言った。
「別に心配なんかしてません。むしろほっとしてます」
「そっかぁ?でもドキドキはしたろ?俺も超ドキドキしたもん。これであいつら帰ってきたら自慢できるなー。俺、慧とキスしたーって」
「自慢って、紘何考えてんの?コーヒー淹れるのやめるよ!!」
さっきの問題行動を一気に笑いに変えてしまう紘。
「うそうそ、ジョーダンだってー。言わない。言わないからそんな怒んなよー」
その性格、うらやましいな、と思いながら、マグカップを用意する私。
「ま、治さんには悪いけど、慧の唇は今俺のもんだから」
「はいはい」
コーヒーを出しながら、苦笑いする私。
紘の本音はよくわかんないけど、私の中で、何かが壊れ、気持ちの変化が訪れようとしているのは確かだった。
不思議なくらい、ギスギスしてた心が楽になって、ちょっと満たされてる気がした。