第2章 Season 1 夢のあと
「逃げんなよ」
「逃げるよ!!」
「何で?」
「何でって、普通逃げるよ」
紘の腕が私の身体を挟んで壁に突かれる。
そのまま身体を密着させてきた。
「ちょっと、やだ。やめて」
「やめない」
俺の目を見て、と紘は私の頬に触れ顔を上げさせた。
「近いよ……」
私も理性を吹っ飛ばされないように、必死で言葉を探した。
目を見ろと言われても、さっきのでかなり動揺してしまっている私は、目が泳いでしまい、まっすぐ紘の目を見ることができない。
「俺らとこういう生活が始まった時点で、遅かれ早かれこうなる運命だったんだよ。治さんはお前の事女だと思っちゃいないかもしれないけど、俺にはちゃんと一人の可愛い女としてお前が見えてる。治さんに愛されよう、見てもらおうって一生懸命悩んで頑張ってる慧がいじらしくて、可愛くて、可愛そうで。今のまんまだと、ぜってーお前壊れちゃうよ。全部投げ出して手放しで飛び込めとは言えないけど、俺にできることならしてあげるから。ちゃんと、可愛いって触れてやるから。だから、俺を利用しなよ、な?」
そう言われて、また私の唇は紘のそれに塞がれた。
紘は、何を言ってるんだろう。もう判らない。
「口、開けて」
唇の端に指を入れられて、こじ開けられ、その隙間から紘の舌が滑り込んできた。
もう無理だ。紘のキスに、私の頭は考える事をやめた。
どのくらい紘とキスしていたんだろう。
「ママぁ、どこぉ?ののたんねぇおなかしゅいたー」
丁度昼寝から覚めた乃々が、ブロックの散らばってる辺りに起き上がりながら叫んだ。
一気に思考が現実に引き戻される。
乃々の位置からこの場所が見えているとは思えないが、慌てて唇を離し、私から距離を置く紘。
「あ、乃々おはよう。お弁当あるよ。食べる?」
平静を装いながら紘の側をすりぬけ、乃々のほうに向かった。
「たべるー。あー、ひろたんだー。おやよー」
ニコニコしながら立ち上がった乃々は、私の後ろにいた久しぶりに見る紘に嬉しそうに挨拶をして、こっちに向かって走ってきた。
「おはよー。いっぱい寝たかぁ?おめぇの母ちゃん、相変わらず料理うめぇな。俺もうお腹いっぱいだぞー」
言いながら乃々を抱き上げる紘。
まるで何もなかったかのように、おめぇもしっかり食えよーと乃々用の椅子に連れて行って座らせてくれた。