第2章 Season 1 夢のあと
「だいたい慧は一途すぎんだよ。こういうことでも起きなきゃ、治さんだって今の生活がどんだけ危ういかなんてわかんないと思う。慧だって、男は治さんだけじゃないってことにもっと目を向けるべきだ。さすがにエッチしちゃうのはルール違反かもだけど、キスするくらいなら、海外だったら挨拶代わりみたいなもんっぽいし、問題ないって。全部俺のせいにしていいから。悪いけど俺弱みに漬け込ませてもらうよ」
まずい流される。
そう思ったときにはもう遅くて、紘の唇は私のそれに重なってた。
こうなると、無理やりとめられるほど私は意志が強くない。
二の腕を掴んでた腕に力を入れ、私を引き寄せ椅子から立たせると、何度も何度も、私の中のギスギスした部分を吸い取るように紘はキスをしてくれた。
頭のすみっこが麻痺してきた。誰かとキスするのなんて、久しぶりなはずなのに、なんかそんな気がしない。昨日何かあったっけ?フィルターがかかったように思い出せなかった。
「……っ、まだ。もうちょっと」
一度唇を離しかけて、もういちどふさがれる。
私はどうしたらいいのかわからずに、唇をぐっと閉じて受けるだけだった。
どこかで言われた通り紘のせいにして逃げようとしていたのかもしれない。
それから、すごく最近感じたような感触。
デジャヴュ?違うよね、とその理由を必死で頭の中に探った。
「慧……集中して」
「集中って……無理……」
そんなことしたら、戻れなくなる。
ふと弱まった紘の腕の隙間から抜け出すと、紘に背を向けて少し離れた。
うつむいて、口元に手を当てると、後ろから、紘の腕が私の身体を包み込んだ。
身体の向きをくるりと戻され、紘と向き合う状態になるとそのままキッチンのほうに押されるように後ろ向きに歩かされた。
「ちょと、やめて!こける」
自分のペースとは違う歩みに、足がもつれそうになる。
紘に強く抱きしめられてるから、後ろに倒れたりはしないだろうけど、私は必死で訴えた。
「大丈夫、俺が支えてっから」
ずるずると半ば抱えられるように押し歩かれて、私の背中にキッチンの一番奥の壁がぴたりとあたった。